ハイポイドギヤの歯切法に関する研究
(歯切設計法)

川 崎 一 正,田 村 久 司          


Method for Cutting Hypoid Gears
(Determination of Machine Settings)


Kazumasa KAWASAKI and Hisashi TAMURA
      When hypoid gears are used in automobile rear axles, the gear axes are relatively displaced. The relative displacement of gear axes causes gear noise. In order to reduce gear noise, it is necessary to modify the tooth surfaces of the gears. In this paper, a method for cutting hypoid gears with modified tooth surfaces is proposed. In this method, the nongenerated ring gear is cut by a cutter in which each cutting edge is modified from the usual straight line to a circular arc with a large radius of curvature and the pinion is generated by a cutter with straight cutting edges as usual. Although a useless tooth surface which does not mesh with the mating surface is apt to appear on the pinion tooth flank during manufacturing, with this method, the surface does not appear. The main procedure of this method is the determination of the machine settings for the Gleason hypoid generator. In order to confirm the validity of the method, a pair of hypoid gears was designed and manufactured using this method. As a result, the tooth bearing was acceptable and the appearance of the useless tooth surface could be avoided.

Key Words: Gear, Design, Cutting, Hypoid Gear, Tooth Bearing, Gleason Hypoid Generator, Undercut, Profile Modification, Crowning


1.緒     言
   ハイポイドギヤはおもに自動車に用いられ,歯車箱の変形に伴う歯車軸の相対的位置変動を許容しつつ,静粛なかみあいをすることが求められる.歯車軸の相対的位置変動は歯面の片当たりを引き起こし,騒音を発生させるから,それを防止するために普通は歯面に歯形修整とクラウニングを施す.すなわちハイポイドギヤは歯面修整しなければならない.本研究はこのようなハイポイドギヤの歯切法に関するものである.
   大きく歯面修整したハイポイドギヤは機構学的に考えると非共役歯車になる(1).これより自動車用ハイポイドギヤの歯切法を考えるとき,二とおりの考え方ができる.一つは非共役歯車に歯面修整を施して希望する歯車を得ようとする考え方,ほかは共役歯車に歯面修整を施そうとする考え方である.我が国の自動車用ハイポイドギヤはほとんどグリーソン方式で歯切りされているが,その考え方は前者に属する.  
   グリーソン方式ハイポイドギヤの歯切法にはFormate法(2)とHelixform法(3)とがあるが,いずれも直接創成法でピニオンを歯切りしようとしている.ところがこう配歯であることが原因で,両法ともピニオン歯切用工具歯車刃面と(リング)ギヤ歯面とが干渉関係をなし,そのためにギヤとピニオンは歯面どうしに干渉のある非共役歯車となる(4).グリーソン方式の歯切法はこの非共役歯車に適当な歯面修整を施して希望する歯車を得ようとしている.歯面修整は歯当たりと回転伝達誤差を調べながらピニオン歯面に施すが,このほかにも歯面干渉回避や歯切盤の精度を考慮しつつこれを行わなければならず,修整作業は非常に複雑になる.そのため,画一的な修整法が見出せず結局は現場の技能に頼らざるを得なくなっている(5)(6)
   本報では,これの改善を目的として共役歯車に歯面修整を施す考え方に基づいたハイポイドギヤのFormate 歯切法を提案し,その歯切設計法を示す.この方法では歯当たりの中心位置が指定でき,歯面修整量もある程度調節できる.しかし,歯面中央部に設計基準点を設け,その点で相対速度方向に歯すじを定め,かつ歯面法線を相対速度と直交させると,ピニオン歯面に無効な歯面が発生することがある.そこで本報では,この原因を明らかにするとともに,無効歯面の生じない歯切法について報告する.

2.基本的な考え方
   グリーソン方式ハイポイドギヤのFormate 歯切法のように工具歯車刃面を円すい面に限定した場合,これでギヤを成形歯切りし,ギヤ歯面(円すい面)でピニオン歯面を直接創成したとすれば,ピニオンとギヤは共役な歯車になる.等高歯のハイポイドギヤではギヤ歯面とピニオン歯切用工具歯車刃面とを一致させることができるから共役歯車の歯切りは可能である.この共役歯車に歯面修整を施すことを考える.修整はギヤ歯面に施すが,そのためにグリーソン方式で円すい面であったギヤ歯切用工具歯車刃面の円すい母線を曲率半径の大きな円弧に変更する.つまりギヤ歯面を,円すい面をわずかに膨らませたような曲面,擬円すい面にする.ピニオン歯切用工具歯車刃面はグリーソン方式と同じく円すい面とする.そのようにすると,ギヤ歯面上の任意の点 Qm でピニオン歯切用工具歯車刃面である円すい面を歯面干渉なしで点接触させることができる(図1).よって,円すい面で創成されたピニオン歯面はギヤ歯面と点 Qm で瞬間的ではあるが定速比の点接触かみあいをし,その点を中心に歯当たりが必ず得られる.点 Qm 以外では歯面修整のため非定速比の点接触かみあいをする.したがって回転伝達誤差を生じるが,それは歯面修整量に依存するから,ある程度調節可能である.


Fig. 1 Center point of tooth bearing and design point

   さて,本歯切法で歯切目標とする歯車対はこう配歯のハイポイドギヤである.歯がこう配歯であるとギヤ歯面である擬円すい面の軸とピニオン歯切用工具歯車刃面である円すい面の軸は食違う(4).ギヤ歯面とピニオン歯切用工具歯車刃面がともに円すい面の場合には,これらの軸の食違いが歯面干渉を引き起こす.しかしながら,本歯切法ではギヤ歯面を擬円すい面にしているから,上述の円弧の曲率半径の大きさと二曲面の配置の仕方によっては,軸が食違っていても歯面干渉が生じないような接触形態にすることができる.よって,目的とする歯面修整がそのまま実現できる.これが本法の基本的な考え方である.  
   ところで,歯当たりの中心点 Qm を歯面中央部に設けてその点を設計基準点にとり,ギヤ歯すじ方向を定めるのが普通であるが,本法では図1に示すように点 Qm とは別の点 Pm をピニオン歯底に定め,設計基準点とする.この設計基準点 Pm は実際のギヤ歯先円すいより頂げき分だけ空間側にある仮のギヤ歯先円すい上にあることになる.設計基準点が決まると,この点におけるピニオンとギヤの間の相対速度ベクトルも決まるから,ギヤの歯すじ方向を相対速度方向に一致するように定める.このようにすれば無効な歯面の発生が防げる.これについては4章で具体的に議論する.なお,図1ではピニオン歯面とギヤ歯面とは離れているが,この瞬間,両歯面はどこかの点で点接触している.かみあいが進行すればピニオン歯面はギヤ歯面上の点 Qm と必ず接触する.  
   結局,本歯切法はギヤ歯切用工具歯車刃面を擬円すい面に,ピニオン歯切用工具歯車刃面を従来どおり円すい面にすることにして,それらの刃面をどのように配置するかという,いわゆるマシンセッティングの問題に帰着される.

3.切れ刃の形成する曲面
ギヤあるいはピニオン歯切用工具歯車刃面となる曲面はグリーソン式環状フライスカッタによって実現される.ギヤ歯切用カッタの切れ刃形状を図2に示す.2章で述べたように刃面を擬円すい面にするためカッタの内・外両切れ刃を従来の直線から円弧に変更している.Oc-xcyczc はカッタに設定した座標系で,zc 軸はカッタ軸である.Oc はカッタ中心である.R はカッタ半径,W はポイント幅,S' はポイント幅増加量(シム厚さ),1',2 は外・内切れ刃の傾き角,(y0, z0),(y0', z0') は円弧曲率中心の座標,r,r' は円弧の曲率半径である.'は切れ刃曲線上の位置を,u,u' は切れ刃の旋回角を意味する.擬円すい面は二つのパラメータ u とあるいは u' と'によって表される.


Fig. 2 Shape of cutting edges of face-mill type of cutter in ring gear cutting

 
   内切れ刃の円弧は xc= 0 なる平面内で点 A(0, R-W/2,0),B(0, R-W/2-Rtan2/8, -R/8) を通るものとした.そのときには,

・・・・・(1)  

   また,0は図2に示すとおりで,

・・・・・(2)

    外切れ刃の円弧は,点 A'(0, R+W/2+S', 0),B'(0, R+W/2+S'+Rtan1'/8, -R/8) を通るものとした.そのときの y0',z0',0' は y0,z00 と同様にして求められる.  
   ピニオン歯切用工具歯車刃面は円すい面であるから,カッタの外・内切れ刃は直線である.この直線はパラメータ v,v' によって表される(図3).


Fig. 3 Shape of cutting edges of face-mill type of cutter in pinion cutting

 
   さて,これらの切れ刃をカッタ軸まわりに旋回させたときの軌跡,すなわち切れ刃の形成する曲面(以後,カッタ刃面という)を Oc-xcyczc で表すと,ギヤ凸歯面歯切用カッタ刃面 Xgc,ピニオン凹歯面歯切用カッタ刃面 Xpc,またギヤ凹歯面,ピニオン凸歯面に対するカッタ刃面 Xgc',Xpc' は式(3)で示される.

・・・・・(3)

   ここに,添字 g,p,c はそれぞれギヤ,ピニオン,カッタに関することを意味し,「'」はギヤ凹歯面とピニオン凸歯面に関することを意味する.式(3)で示されている各カッタ刃面の単位面法線ベクトルをそれぞれ Ngc(ug, ),Ngc'(ug', ),Npc(up),Npc'(up') で表す.また,その向きは曲面の軸側から外側へ向かう方向を正とする.


4.無効歯面
   ピニオン歯切用カッタの切れ刃形状を示す図3で,A0 はカッタ刃先上の角の点である.円すい面を刃面とする工具歯車は,その軸まわりに回転して,ピニオン歯面を創成する.工具歯車の回転角を創成角ということにし,これをとする.  
   図4は,創成角1,2,・・・と順次変化したときに現れる歯面創成線 G1,G2,・・・ および点 A0 の軌跡 L1,L2,・・・ をピニオンに固着した座標系でみたものである.軌跡 L1,L2,・・・ において,実線で示した部分が歯面上にあり,破線で示した部分が空間側にある.また,点 P は創成角の瞬間の創成線 G1 と点 A0 の軌跡 L1 の交点である.よって,創成線 G1 の現れる範囲は P までである.一方,同じ瞬間,点 A0 はピニオン歯底の点 PU を創成している.したがって点 P と点 PU が一致しない場合,図4の陰影部で示したような創成線の現れない部分が生じる.陰影部で示した領域は,カッタ刃先角部 A0 が点刃物のように作用し,細い筋状の切削痕を残し,その切削痕が集まって一つの曲面を形成したものであり,一旦創成された歯面が刃先角部により切り取られるいわゆる切り下げとは異なる.陰影部はかみあいには関与しない曲面である.よって,この曲面を無効歯面ということにする.無効歯面の発生を防ぐためには,点PIがピニオン歯底にくるようにする.すなわち,点 P においてカッタ刃先がピニオン歯底を創成し,かつ円すい面がピニオン歯面を創成するようにすればよい.それには,点 P においてカッタ刃先稜の接線方向がピニオンとギヤの間の相対速度方向に一致するようにする.具体的には点 P における歯すじ方向を相対速度方向に定める.  
   無効歯面が生じている場合,創成角が刻々変化したとき,そのときのLは無効歯面を,Gはピニオン歯面を作るが,各瞬間のLとGはともに刃面上にあることから,無効歯面と歯面とはなめらかにつながった形のものになる.


Fig. 4 Cause of appearance of useless tooth surface

 
   一方,平歯車に生じるような切り下げはハイポイドピニオンにも生じる.切り下げは各瞬間のピニオン歯面創成線がピニオン歯面上で交わるときに生じ(7)(8),歯面と切り下げられた面とは稜線でつながる.このように無効歯面と切り下げられた面とは歯元に生じる点でよく似ているが,その原因と現象はまったく違っている.

5.設計基準点
   図5にハイポイドギヤとその座標系 O-xyz を示す.ギヤ軸は z 軸に一致し,ピニオン軸は y 軸に平行である.また,歯車軸の共通垂線を x 軸とする.オフセット量 e は x 軸に沿う長さで示される.O-xyz でギヤとピニオンのかみあいを考えるから,この座標系をかみあい座標系ということにする.またピニオンの歯切りもこの座標系で考える.


Fig. 5 Hypoid gears and their coordinate system

 
   ハイポイドギヤの歯切設計においては,設計基準点を定め,その点で歯車の歯すじが相対速度方向になるようにする(9).そして,その点を中心に歯当たりが得られるようにする方法もある(7)(10)(11).本歯切法では,設計基準点をギヤの歯すじを決めるための基準の点として扱い,歯当たりの中心点とはしない.  
   さて本法では,基準点 P を定めたのち,この点を通るようにピニオン歯底円すいを定める.これによって無効歯面の発生が防げる.ギヤ歯先円すいはピニオン歯底円すいと頂げきを考慮して定めることになるが,本法ではまず頂げきを考慮しないでギヤ歯先円すい(そのときの円すい角を gi とする)を定める.実際に頂げきを確保するときには,ギヤ歯先円すい角を gi よりも小さくする要領で行う.  
   設計基準点 P を定めるための条件として,歯数比 i(i≧1),オフセット量 e のほかに歯車の大きさに関するギヤ半径 Rg を与えるのが普通である.ところが基準点を定めるための自由度は 3 であるから,基準点を定めるためには Rg と,そのほかに二つの条件が必要になる.たとえば,ピニオン半径 Rp とギヤ歯先円すい角などであるが,本法ではこれらを基準点を定めるための条件として与えることにする.  
   かみあい座標系 O-xyz において,基準点 P の座標を (X0, Y0, Z0)とし,これを位置ベクトルX0で表す.図6より,次の関係式を得る.

・・・・・(4)  

   点 P におけるピニオンとギヤの間の相対速度ベクトルを W としたとき,W に接しギヤ軸を軸とする円すいがギヤ歯先円すいになる.そのギヤ歯先円すいの単位面法線ベクトル Ng は W と直交するから

・・・・・(5)  

   ここに,

・・・・・(6)  

   V は歯車の速度ベクトルである.式(4),(5)より X0,Y0, Z0 すなわち設計基準点の位置 X0 が決まる.


Fig. 6 Design point P

    設計基準点 P の位置 X0 が決まると,ギヤ歯先円すい頂点 Og の位置 (0, 0, zg) が決まる.また,ピニオン歯底円すいも決まる.すなわちその頂点 Op の位置(e, yp, 0)と歯底円すい角prが決まる.さらに,点 P におけるねじれ角βg,βpが決まる.次いで,歯たけ hk と頂げき b を与えることにより,ピニオン歯先円すい角pf,ギヤ歯先円すい角gfおよびギヤ歯底円すい角grを決定することができる.

6.歯切り
   6・1 ギヤの歯切り     ギヤは成形歯切りしたまがりばかさ歯車とする.図7にギヤの歯切方法を示す.Om-xmymzmは歯切盤に設定した座標系で,Omはマシンセンタ,xm,ym,zmの各座標軸はそれぞれV,H,クレードル軸に一致している.zc軸はカッタ軸で,クレードル軸に平行である.すなわち,カッタ軸は傾けない.ところで図7の点Pmの位置ベクトルx0とベクトルwは図8のO-xyzでの設計基準点Pの位置ベクトルX0とその点での相対速度ベクトル W とを Om-xmymzm に変換したものである.その変換の仕方は次のとおりである.


Fig. 7 Method of ring gear cutting


Fig. 8 Transformation of ring gear into Om-xmymzm


   まず,図8に示すように点Pをz軸まわりに角度だけ回転し,yz平面の近くにくるようにする.このようにするのは,かさ歯車がピッチ母線(Pitch surface generaror)(12)近辺で歯切りされるのと同様に考えて,ym軸近辺でギヤの歯溝を切削するためである.次に,ギヤブランクをz軸方向に平行移動して頂点Ogが原点Oにくるようにし,さらにy軸まわりに半回転したのち,x軸まわりに(gr-/2)ラジアン回転する.そうするとギヤブランクは図7に示した状態になる.このとき,点Pは点Pmに移っている.点Pmを位置ベクトルx0で表すと,=(gr-/2)とおいて,

・・・・・(7)  

   ここに,EgはO-xyzにおけるギヤ歯先円すい頂点Ogの位置ベクトルである.また,A,B,Cはそれぞれx,y,z軸まわりの回転に関する座標変換行列で,以下の内容をもつ.

・・・・・(8)  

   ハイポイドギヤでは相対速度ベクトルWはギヤの歯すじを決めるので,ギヤ歯面を歯切りするとき必要になる.よって,これもOm-xmymzmに変換し,wとおく.

・・・・・(9)  

   いま,Om-xmymzmにおいてカッタ中心OcがDg≡(Vg, Hg, 0)Tにあるカッタ刃面Xgc,Xgc'でギヤ歯面を広刃法(Spread-blade 法)で成形歯切りするものとする.このとき,ギヤ凸歯面歯すじ方向を凹歯面歯すじ方向よりも優先させて考え,刃面Xgcが点Pmでwに接するようにする.

・・・・・(10)  

   式(10)より,Vg,Hgとug,が決まる.すなわち,カッタ・マシンセッティングDgが決まる.

   6・2 ピニオンの歯切り     ピニオンは片刃法によって直接創成歯切りする.よって,ピニオンの歯切りは凹歯面と凸歯面別々に考える必要がある.ここではまず,凹歯面の歯切りについて考える.
   図9で,ギヤ凸歯面上の点Qmを中心に歯当たりを得るため,ピニオン歯切用カッタ刃面Xpcが点Qmでギヤ歯面と接触するようにその位置と姿勢を定める.このとき,カッタ刃先が頂げきを確保しつつピニオン歯底を削るようにカッタ軸zcをzm軸に対してxm 軸まわりに角度だけ傾けるが,zc軸はym軸まわりにも回転することができるから,角度傾けたのち微小角度だけym軸まわりに回転して傾けることを許すものとする.これによって圧力角の調節がある程度できる. はいまのところ未知である.なお,点Qmの位置ベクトルxm0を母線とする円すいの半頂角と,点Qmからギヤ軸におろした垂足Rg0とを指定することで決定できる.刃面Xpcとギヤ歯面との接触条件は,カッタ中心OcがD≡(V, H, Z)Tにあるとして

・・・(11)  

   式(11)よりV,H,Zとup,vpが決まる.結局,Om-xmymzmにおいては,カッタ中心Ocは(V, H, Z)にあり,カッタ軸方向は次に示す単位ベクトルaの方向を向いていることになる.

・・・・・(12)


Fig. 9 Sketch showing the cutter used for pinion generation and the ring gear

 
   Ocの位置Dとカッタ軸方向aをかみあい座標系O-xyzに変換すれば,ピニオン凹歯面歯切用カッタ中心の位置Dpとその軸方向apが決まる.apの各成分はカッタ軸の方向余弦を示す.

・・・・(13)

    式(13)で示されるカッタ・マシンセッティングDp,apによってピニオン凹歯面を直接創成歯切りする.  
   このように,カッタ刃面である円すい面Xpcと擬円すい面Xgcを点接触させることで歯当たりの中心位置が指定できる.また,XgcとXpcのすきまが小さければそれがそのまま修整歯面と共役歯面との関係になる.このすきまは回転伝達誤差と直接関係する.  
   ピニオン凸歯面も同様にして歯切りする.すなわちギヤ凹歯面上に点Qm'を定め,この点で点接触するようにカッタ刃面Xpc'を配置する.そして,これでピニオン凸歯面を直接創成歯切りする.

7.歯面間の干渉  
   ピニオン歯面は上述のごとくギヤ歯面上の点Qmで接触の条件を満足するが,ギヤ歯切用カッタ切れ刃の円弧曲率半径の大きさによっては干渉が起きる場合がある.この干渉の有無は,ギヤ歯切用カッタ刃面である擬円すい面Xgcとピニオン歯切用カッタ刃面である円すい面Xpcとの点Qmにおける接触状態を調べればわかる.Xgc'とXpc'との関係についても同様である.  
   点接触している曲面間の干渉の有無については,横田の示した相対全曲率K(13)の正・負で判別できる.Kが正のとき歯面干渉はない.Kが負のとき歯面干渉がある.干渉がある場合,ギヤ歯切用カッタ切れ刃の円弧曲率半径を小さくすることによってそれを防ぐことができる.

8.設計例と歯切実験  
   7章までの考え方に基づいてハイポイドギヤを設計した.表1に基本諸元,表2にカッタ諸元,表3に歯切設計結果を示す.本歯切法では,表1,表2に示した諸元を与えると表3の結果が求められる.これらの計算は電子計算機を用いて逐次近似法によって行う.


Table 1 Basic data of hypoid gears


Table 2 Cutters specifications (mm)


Table 3 Calculated results of hypoid gear design (mm)

    表2のギヤ歯切用カッタ切れ刃の円弧曲率半径r = r' = 200 mmは,カッタ刃面XgcとXpc,Xgc'とXpc'それぞれが点Qm,点Qm'で点接触している状態での相対全曲率Kを計算し,その結果(表4)から干渉が生じないような値としてその値を選んだ.r,r'を小さくすれば干渉は生じないが,小さくしすぎると非共役性の程度が大きくなり,回転伝達誤差が大きくなる.  
   カッタ・ブレードは既存のブレードを利用することにした.それゆえにギヤを広刃法で歯切りすることができなくなり,また切れ刃の傾き角,が半端な値になった.表3の1234はGleason No. 116 hypoid generatorに対するカッタ・マシンセッティング角で,それぞれチルト,スイベル,エキセン,クレードル設定値である.これらはDp,ap,Dp',ap'から決まるものである.


Table 3 Calculated relative total curvature K

    さて,表1〜3の設計例で示した歯車対の歯切りを行った.図10に歯切結果を歯当たりの方法により示す.(a)が歯当たり写真,(b)がギヤ凸歯面上での歯当たりスケッチ結果である.これは極軽負荷運転後の歯当たりである.歯当たり調整のための修正歯切りはしていない.図(b)中の黒丸印で示した点は歯面中央部に定めた設計上の歯当たりの中心点である.歯当たりはこの点を中心に得られており,無効歯面は生じていない.また,切り下げも生じていない.以上より,本歯切法の有効性が確かめられたものと考える.


(a) Photograph of tooth bearing


(b) Sketch of tooth bearing
Fig. 10 Tooth bearing of mating gears


9.結     言
   自動車用ハイポイドギヤは普通,歯面修整を施す.グリーソン方式ハイポイドギヤの歯切法は歯面干渉のある非共役歯車に歯面修整を施す考え方に基づいている.したがって,歯面修整の方法と修整量の大きさを決めるとき,歯面干渉回避や歯切盤の精度を考慮しなければならず,非常に複雑化してくる.そのため,画一的な修整法が見出せず,結局は現場の技能に頼らざるを得ないのが現状である.  
   本法は共役歯車に歯面修整を施して希望する歯車を得ようとする考え方に基づいている.その歯面修整はギヤ歯切用カッタ切れ刃を従来の直線から曲率半径の大きな円弧に変更することで実現している.また本法では,かみあいには関与しない無効歯面の発生を防ぐために,設計基準点をピニオン歯底に定め,その点で歯すじを定めている.さらに,設計基準点とは別にギヤ歯面上の任意の点を歯当たりの中心位置に定め,その点でピニオン歯切用カッタ刃面がギヤ歯面と点接触するようにしている.そして,これでピニオンを直接創成歯切りする.  
   以上のごとく,本法は無効歯面の発生を防ぎつつ,一回の歯切りで指定した位置に歯当たりを得ることができる方法である.また,ギヤ歯切用カッタ切れ刃の円弧曲率半径の大きさを変えることによって,修整歯面と共役歯面との関係すなわち回転伝達誤差の調節がある程度可能であるという利点がある.

文     献
(1) 大泉哲哉・酒井高男,機論,49-444,C(1983),1426-1433.
(2) Gleason Works, Calculating Instructions Formate Hypoid Gears, (1956).
(3) Spear, G. M., ほか2名,Trans. ASME, J. Eng. Ind., (1960), 179-190.
(4) 歯車便覧編集委員会編,歯車便覧,(1962),740,日刊工業新聞社.
(5) Baxter, M. L., ASME Paper, No.61-MD-20, (1961).
(6) 高橋幸一・ほか2名,機論,51-468,C(1985),2074-2082.
(7) 田村久司・坂上俊雄,機論,55-509,C(1989),145-152.
(8) 酒井高男,機構学大要,(1967),160,養賢堂.
(9) 高橋幸一・伊藤紀男,機論,49-443,C(1983),1246-1255.
(10) 島地重幸・ほか2名,機論,57-536,C(1991),1324-1328.
(11) 本間晃・廣川純夫,機論,57-542,C(1991),3326-3332.
(12) Merritt, H. E., Gears Third Edition, (1954), 40, Sir Isaac Pitman & Sons, Ltd., London.
(13) 横田晃,機論,33-253,(1967),1491-1502.

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